保健・医療・福祉と市民の連携への試み―「地域ネット松戸」の報告 千葉大学第3内科平成12年度例会で発表

本報告は千葉大学第3内科平成12年度例会で発表したものです。

 

保健・医療・福祉と市民の連携への試み―「地域ネット松戸」の報告

平成12年12月17日

 

1 私は90年2月から98年12月まで松戸市の千葉西総合病院で9年間内科・循環器に従事し訪問看護などを扱う地域医療部長として働き、考えるところあり、平成11年1月同じく松戸市に新規に内科診療所を開院致しました。今回人口46万人の松戸市において保健・医療・福祉と市民の連携を求める試みとして「地域ネット松戸」という組織を作り、地域医療の新たな展開を行っていますのでそれを報告いたします。

 

2 開院以来、診療にあたっては、患者さんにとって最善の医療を提供するべく厳格な臨床と親身の医療を心掛け、病診連携や診診連携を十分に活用しています。

 

3 今日、高齢社会の到来と本年4月から開始された介護保険の動き、他方都市では必ずしも形成されていない地域社会という状況で、社会資源の効率的な活用と連携が求められていると考えます。私は以前から「保健・医療・福祉の連携」が当該地域の地域医療や地域コミュニティの再構築の要だと考えてきました。今回開業からしばらく経過した、平成11年11月松戸市医師会の承認を得て、「地域ネット松戸」を形成する呼びかけを開始しました。それは、各専門職の交流と研鑚、市内諸機関・個人の紹介を当面の目標とし、将来的には市民参加型の協議会設立も展望するものです。

 

4 地域ネット松戸の現在の世話人を示します。 松戸市医師会を背景に歯科医師会、薬剤師会、特別養護老人ホームの代表、主要病院、訪問看護ステーションなど、私が10年間培ってきた諸関係も頼りとし、市内の主要な医療と福祉の関係者が参加しています。

 

5 平成12年に入り、世話人会を何回か重ね、これまで2回、シンポジウム形式の会を開催致しました。いずれも現在焦眉の話題となっている介護保険をめぐるもので、両集会とも専門職・市民あわせて160~180名が参加する盛大なものとなりました。

 

6 この地域ネット松戸に関しては、朝日新聞千葉版、東葛版にも報道されました。

 

7 6月3日の会では、松戸市の介護保険の担当者、及び介護保険の開始で措置制度から民間市場競争の場に出され経営的に困難とされた特別養護老人ホームの代表、ソフトも間に合わず混乱の中始動せざるを得なかったケアマネジャーの代表から発表していただきました。

 

8 先日11月25日行った会では前回の会を踏まえ、「現場からの報告と提言」と題し、ケアマネジャー・ヘルパー・介護認定審査会委員から発表していただき、松戸市と厚生省に具体的な改善を要する点を指し示しました。

 

9 ケアマネジャーからは現場で実際に必要な「横だしサービス」やケアプラン作製報酬の増額などを訴え、またヘルパーからは業務内容の国民への周知が求められることや介護報酬が不合理で安価な点が指摘されました。また介護認定審査の立場からは介護度を現行の6段階から4段階に、さらに現在入所施設では極端に言えば「入所者に何もしないで要介護者の介護度が低下すれば報酬が上がる、儲かる」という現行制度の欠陥を指摘しました。これらの提案には、松戸市および厚生省のいずれから も前向き・好意的な回答を得ました。

 

10 地域ネット松戸ではホームページをインターネット上に開設し、広く市民や専門職に市内の社会資源を生きた言葉でお知らせしています。例えば「サービス事業者一覧」をクリックすると、各事業所の内容が示され、その中には紹介の文章が書きこめるようになっています。また11月25日の会の全文もホームページ上に掲載し、広く世論に問うています。

 

11 介護保険は介護の社会化、家族の負担の軽減を直接の目的としていますが、他方地方分権の流れの中でその試金石とも言われています。各自治体の裁量権は大きく、今回の会でも厚生省は「大枠を外れなければ市町村のメニュー事業を自由に作り上げて構わない」といい、厚生省大臣官房審議官は「介護保険運動であり、助け合う地域社会の契機に」と語っている程です。実際介護保険を機に福祉の発展した町作りをしている首長は「介護保険の成否は結局、市町村長がやる気になるかならないかの問題」と語っています。 

 

 このような施策を検討する官製の「審議会」や「協議会」は往々にして、既存の利益団体や政治集団のエゴの追及の場となり、実際の市民や現場の利益につながらないことがあります。政策や施策作りにおいては、医療・保健・福祉の各専門職が市民の立場に立ち、現場の実践から積み上げた提案や発言が極めて重要と考えます。 

 

 今日、介護保険の各サービス事業者の質を確保するためのオンブズマン制度が盛んに提案されてきました。しかし考えれば介護保険料は松戸市をとってみても年間86億円の大金が徴収されます。他方、例えば50人の入所施設を建設すればそれだけで10億円がかかる現実があります。真に有効で適切な使い道の検討も含め、介護保険の支出面の住民監視―行政に対するオンブズマン制度こそ今後必要なものと考えます