医師と介護保険事業者との連携を進めるには
松戸市医師会在宅ケア委員会委員長 堂垂伸治
平成16年10月18日
(以下の文章は「千葉県医師会雑誌」04年12月号に掲載したものです。)
<はじめに>
介護保険施行後すでに4年を経過し、来年はその改正が予定されています。介護保険の考えは、要介護者を中心として「利用者本位の介護」を連携良く行うことでした。以前から、多職種間の連携が語られてきましたが、相互の交流は未だ不十分と感じています。今回、他の職種が医師をどのようにとらえ感じているのかをアンケート調査しましたので、報告します。 アンケートは平成16年5月21日、松戸市介護支援課が行った「介護保険事業者研修会」で行いました。出席者は、居宅介護支援事業者数53、地区在宅介護支援センターは11センターで、複数出席もあり、対象はケアマネジャー85人です。この出席者85人中、72人から回答を得ました(回答率85%)。以下にそのアンケート内容と回答数をお示しします。(回答数は各質問の後の数値です。)
<結果>
(1)介護の現場では主治医との連絡の必要性を感じますか?(図1参照)
1)必要 66 2)実際上余り必要でない 5 3)全く必要でない 0
(2)介護者の(意見書記載者等の)「主治医」との意思疎通は良好ですか?(図2参照)
1)良好 7 2)どちらとも言えない 37 3)良好でない 25
(3)医師との連絡法は主にどのような手段を使っていますか?
1)直接面談 28 2)電話 41 3)FAX 29 4)E-メール 5
(4)主治医との連絡がとりずらい要因としては何がありますか?(複数回答可)(図3参照)
1)面識が薄い 39 2)医師が忙しそう 48 3)とにかく話しづらい 21 4)病院の勤務医なので連絡がとりづらい 25 5)主治医の交替があるので 6
(5)貴事業所ではどんなところで苦労されていますか?(複数回答可)
1)経営面で苦労 14 2)ケアマネジャーの確保 20 3)経営者の考え方 7 4)人材確保 11 5)人事管理 3 6)患者さんの確保 1 7)他の事業者との連携 17 8)入所施設の不足 28 9)訪問医師の確保 8
(6)主治医や医師会に特に何を期待されていますか?(複数回答可)(図4参照)
1)病状の説明 34 2)患者さんの的確な管理 19 3)適宜の連絡 25 4)病状悪化時の迅速な対応 30 5)医学関連知識の教育 11 6)「症例」を巡る検討会 11 7)訪問医師の増加 14 8)個別の対応で丁寧にしてもらいたい 18
最後に「特に各医師に対して具体的な事例などで注文や要望がありましたら記載してください。」の設問には、「病状の説明を特に要望、FAXでも結構です。是非いただきたい」、「ターミナル期における家族の医師に対する大いなる期待・不安への対応」、「意見書など読める字で、専門用語や略語を使わずにしてほしい」、「医師とケアマネの研修会などの機会を作って下さい」等がありました。
<考察>
アンケート結果の概略は、「介護の現場では主治医との連絡の必要性を感じて」いるが、主治医との意思疎通は必ずしも良好でない。 医師との連絡法は主に電話やFAXで行っており、主治医との連絡がとりずらい要因としては、医師が忙しそう・面識が薄い・病院の勤務医なので連絡がとりづらい等でした。事業所で苦労している点は、入所施設やショートステイ先の不足・ケアマネジャーの確保・他の事業者との連携・経営面の苦労等でした。主治医や医師会に期待するものは、病状の説明・病状悪化時の迅速な対応・適宜の連絡・患者さんの的確な管理等でした。
要介護者を中心とした医師と事業者・専門職と円滑に「意思疎通」を行うには、当然ながら相互の「顔の見える交流」が一番です。特に、共に討論したり共に患者管理をしたりという「一緒に仕事をする」ということが最善の近道だと考えます。介護の現場は不断に「縦割り」・「個別化」に陥入りかねません。
それぞれ忙しい日常業務を行っている最中にこういう環境をどうやって作れるでしょうか?
第1の方法は、もちろん「サービス担当者会議」の開催だと思います。現在、多くの事業者が一堂に会した「サービス担当者会議」は、時間的にも経済的にも開催しづらいのが現状です。特に医師は正に日常診療で忙しい日々を送っており、例外はあるでしょうが現状では一般開業医などは殆ど参加不可能なのではないでしょうか。
この点に関してですが、私は別件で尾道市医師会の片山壽医師会長を訪問しました。尾道市医師会ではこのサービス担当者会議を9割以上で開催しています。そこで得られた印象としては、①医師会員に多くの研修会を開催している、②パラメデイカルは自立してそれぞれの役割を果している、③会議は診療所や病院など医師の場所で開催する、④ケアマネジャーと医師の関係が密であるというもので、大変参考となると感じました。
第2の方法は、(この間松戸市で行っているのですが)「高齢者支援連絡会専門部会」の活用です。
この会議は、地域で対処困難事例などを持ち寄り、地域の専門職(在宅介護支援センター・介護支援専門員・薬剤師・医師等)がそれぞれの専門的な視点で検証し、「地域なりの解決を目指す」会です。この場での討論の積み重ねはそれぞれの相互理解=他の職種が何を問題と感じているかなどの理解に大変役立ちます。通常の医療の経験からは学んでいない「ケースワーカー」的な発想や考え方を医師が身につける「訓練と学習の場」にもなります。数多くの医師が例え1回でもよろしいですから代わる代わる参加し相互の交流を図ると、当該地域での「顔の見える連携を作る」一助となると考えています。
第3に、行政としてもこうしたケアカンフアランス=ケア担当者会議の場を設定し、互いの交流を図ることです。具体的には、問題症例や解決困難事例をケアマネジャーなどの事業者側(5-6者)から挙げてもらい、それぞれに担当する主治医や多職種が集まり、グループで検討会を行う。さらにその結果を発表し相互に検討する。この種の会を開催して行けば、相互理解と問題解決能力を養うと考えます。
今回は、介護保険事業者に医師に対する意識のアンケート調査でしたが、逆に、医師の側も彼らに対して少なからぬ感想や注文もあろうかと考えます。特に、サービス担当者会議を未だに開催していないケマネジャーが多数見られますし、ケアプランも送付してこない事業者も多数あります。民間活力を導入するという介護保険の進展で、「お金儲けが優先、その後に医療や福祉」という感覚を感じる機会も多々あります。こちらからも注文を出しさらに市民本位の発展を推進したいものです。
<結語>
今回、介護保険事業所のケアマネジャーからアンケート調査を行った。医師と他の専門職との連携は未だ不十分と考えられた。連携を深める今後の方策として、①「サービス担当者会議」の開催、②「高齢者支援連絡会」の活用、③行政がケアカンフアランス=「ケア担当者合同会議」の場を設定すること、などが有効と考えられた。千葉県内の各医師会諸兄におかれましても、上記の結果を是非ともご参考として下さるようお願い申し上げます。