独居生活者の転帰(当院2年3ヶ月の追跡調査より) 「千葉県医師会雑誌」06年11月号より

独居生活者の転帰(当院2年3ヵ月の追跡調査より)

2006年11月30日  医療法人社団緑星会 どうたれ内科診療所  堂垂伸治

(以下の文章は「千葉県医師会雑誌」06年11月号に掲載文を拡充したものです)       

*文中の1)~7)は参考文献を示す

 
Ⅰ.はじめに 

 04年6-8月にかけて、当院で管理している患者さんのうち独居(単独世帯生活者)の方に関してアンケート調査を行った1)。その結果、約3分の1で生活や健康上の不安を訴えられ、約2割の方が「頼りになる方」を身近に持たず、緊急連絡先を持たない方もおられた。7割の方は既存の介護サービスを受けていなかった。

 

 以上から、① 外来患者さんの緊急連絡先をピックアップしておくこと、② 地域の民生委員等と医療機関が独居高齢者に関してコンタクト可能としておくこと、③独居高齢者に「かかりつけ医を明示するカード」を作製し携行して頂くこと、などを提案した。

 

Ⅱ.独居生活者の追跡結果 

 それから2年3ヵ月後になる06年9月、「これらの患者さんがその後どうなっているのか」を追跡調査した。(その後新たに判明した独居の方もおり、調査対象人数は以前より増加している)
 対象は当院が管理している患者さんのうち、独居の方は101人(H16.6~H18.9)(うち在宅患者さんが7人)。男性19人、女性 82人。調査開始時(04年6月)の平均年齢は76.0歳であった。(なお、00年の「一人暮らしの男女比」は男:女=24.5%:75.5%である2)。当院の調査で女性の比率が高いのは、独居高齢者ではより女性の方が健康に不安感を抱いているからかもしれない。)独居の原因は、プライバシーにも関わり正確には把握し得ないが、約3割が配偶者と死別された方であった。
 

 101人の独居の方の内訳を見ると、表1のようであった。

(表1)

血縁が県内に在住 血縁が県外だが近郊に在住 血縁が遠方に在住 血縁なし 不明
49人 31人 7人 6人 8人

比較的近くに血縁者がいた方が半数近くであったが、他方「遠方にいてすぐに対応できない」方が7人、さらに全く血縁や身寄りのない方が6人いた。 介護保険の要介護認定を受けていた方は、約3割の31人であった。

 

 2年3ヵ月後の転帰は表2のごとくであった。

(表2)

管理中 施設へ 家族と同居 死亡 他院へ 未通院 不明
77人 6人 5人 5人 4人 1人 3人

 この2年間、これらの方々で特に心配な方78人に(外来受診の中間にあたる日に)月1回程度の電話による安否確認を行った。当院からの定期的な電話連絡に対する反応では、「歓迎する」が31人、「特に必要ないまたは拒否」が47人であった。つまり、当院からの電話での問いかけには4割の方が喜ばれた。在宅患者さん7人では、1人が亡くなり1人が施設に入所され、5人が在宅生活を続けておられた。独居の方で、その後在宅で管理を続けた方は居なかった。

 

 以上から感じたところを以下に整理します。

 

Ⅲ.電話連絡に関して 

① 独居の方の抽出は、医療機関の通常の外来診療ではその観点は持たないので、意外と難しく、当初のチェックから漏れていた方が1割強居た。今後は、初診時の問診票・アナムネなどを工夫し、家族関係なども聞き取れるものとするべきと感じた。当院では問診票で以下の質問項目を追加した。
 『追加の質問です(該当しない方は回答不要です)。お一人暮らしの方の場合や高齢者夫婦だけでお住まいの方は、下記に○を付けてください。

 1 一人で暮らしている  2 ともに65歳以上の夫婦だけで暮らしている』

 

 ② 独居とはいえ中には全く元気に動いている方も多くまた近所に家族がいる例もあった。そのような方には電話連絡は不要の場合もあった。また「必要ない」という中にも、何かのときは電話連絡可能であれば歓迎との意見もあった。電話連絡を歓迎された方でも、その連絡時間は患者さんの都合に合わせる必要があり、それが煩雑であった。医療機関からの定期的な電話連絡は電話する側にも相当の負担があった。

 

 ③ 以上より、医療機関にとって無理のない体制としては、独居の方に「何か心配事があったら、開院時間中は 遠慮なく連絡下さい」と公示しておくことが一番無難で妥当と感じた。医療機関(診療所)は当該患者さんと日常的な面識・信頼関係があり、特に体調面に関しては患者さんが相談し易い。そしてこの程度であれば、事務や看護師で十分対応が可能であり、日常業務に追われる医師の手を煩わせないで済むと感じた。

 

Ⅳ.いわゆる孤独死について 

 亡くなられた5人の中に突然死が3人あった。うち2人は路上で倒れられ、1人が自宅で死亡しており、いわゆる孤独死であった。残りの2人は疾病で入院後死亡されたものであった。この3人を振り返ると、当方としては「止むを得ない結果で防ぎようが無かった」というのが実感である。最善の医療や注意を払い努力しても「孤独死」を完全に防ぐことは不可能ではないかと感じた。

 

 日常外来等で独居の方と接していると、やはり「一人暮らしをしていても安心して生活できること」を求めておられると痛感する。主治医が「大丈夫ですよ。安心してください」と言うとそれだけでほっとされて帰る方も多い。 したがって、「孤独死を防ぐ」という概念を大切にして、「独居になっても安心して住めるように地域社会をどうするか」を中心施策として考えるべきと感じた。
 

Ⅴ.独居の方に必要なもの-それは「一人暮らしでも安心して生活できること」

① 現在、当地では「常盤平高齢者支援連絡会」という地域ケア体制を築き、私自身その1員として活動している。これは、専門職と地域住民が協働で高齢者問題を地域なりに解決して行こうというものである3)。

 

 この中で、民生委員や相談協力員とともに独居高齢者の見守りの方法を様々に検討している。その結果、一人住まいや高齢者世帯の方に緊急連絡先や主治医・介護保険事業所などの一覧を記載した「あんしん連絡網」を作成するに至った。Ⅰで述べた②と③を実現した。また近接の常盤平団地自治会でも同様の「あんしん登録カード」を作っている4)。全国各地の社協や民生委員でも意識あるところでは、こうした試みが為されている。

 

②当院は在宅患者さんには24時間連絡体制を保障しているが、診療所は一般的には24時間体制をとれない。独居の方にまで24時間体制を保障するのは、往々にして不定愁訴への対応も生じ大幅な負担となることが予想される。

 

③そこで、24時間体制の電話相談窓口があると、独居の方に安心を提供すると考える。これは医療圏域に1箇所程度設置することで有効なのではないか。本来は既存の「在宅介護支援センター」や、現在新設されている「地域包括支援センター」の役割かもしれない。また、現在千葉県内14地域に設置されている「中核地域生活支援センター」がこれを果たすべきなのかもしれない5)。

 

④独居高齢者の中には、多数の疾患がありながらも力強く在宅で生活されている例もある。こうした場合は、本人の意思もさることながら、やはり担当ケアマネジャーの資質が寄与しており、訪問介護・訪問診療・訪問看護をたくみに活用されている。 逆に言えば、ケアマネジャーが安易な資質だと在宅は継続しない。外来で開始した人の独居者の中には、その後在宅に移行し一人暮らしを続けたという例はなかった。独居困難となったら、施設入所や家族との同居に直ちに移行していた。 一人暮らしへの対応では、ケアマネジャーが重要な役割を果たし、きめこまかで丁寧なサービス内容を提示し、患者さんを支える事ができるかどうかがポイントと考える。

 

⑤もちろん独居高齢者は必ずしも介護保険の対象ではなく、当院の調査では7割の方が介護保険の適応外であった。したがって、ケアマネジャーが管理し得ない独居の方も多数いる。これらの方が少しの不安で(実は軽度にもかかわらず)救急病院に駆け込んだり施設に入所したりすることも考えられる。適切な「相談役」を兼ねた24時間体制の「独居110番」~「安心ほっとライン」と言うべきものを必要であると痛感した。


Ⅵ.終わりに 

 平成17年の国勢調査では全国の一人暮らしの高齢者(65歳以上)は、高齢者全体の15.1%405万人である。2025年には680万人に達すると推計されている。25年には75歳以上の4割が一人暮らしになるという。実際はこの予測よりさらに増えるだろう。

 

 これはいわゆる団塊世代3年間の総数よりも多いという膨大な人数である。介護保険が創設されるとき、「これからは誰もが人生最後の3ヶ月は寝たきりになる」と語られた。しかし、今後は「誰もが人生最後の5-7年間は一人暮らしになる」時代が到来するのである。厚生労働省も06年8月22日、「孤立死ゼロ・プロジェクト」を07年度に実施するとしている。6)

  1980年 2000年 2025年
世帯主が65歳以上の世帯 433万世帯 1113.6万世帯 1842.6万世帯
うち一人暮らし 20.4% 27.5% 36.9%
うち夫婦のみ 28.8% 34.6% 33.1%
要介護認定者   260万人 820万人

7)
 現在、「認知症になっても安心して生活できるまちづくり」が謳われている。今後は、同様に「一人暮らしになっても安心して生活できる」よう、地域に“安心”をどう提供するかが問われる時代と考える。 

 医療機関もこうした問題意識を持ち、地域に密着し安心を提供する体制作りの一助となることを目指すべきと考える次第である。

 

参考文献

1)独居高齢者(単独世帯生活者)に対する当院アンケート調査から

 

2)平成18年版 高齢社会白書

 

3)松戸市地域福祉計画

 

4)孤独死ゼロ作戦4つの課題<常盤平団地>

 

5)中核地域生活支援センター事業について~健康福祉千葉方式の展開~

 

6)読売新聞 06.8.22

 

7)朝日新聞06.05.14より改編